日本三不動の一 ロゴ 瀧谷不動尊

8月末 菩薩の心

8月末 菩薩の心

 人は生活の中で、知らず知らずのうちに迷惑な行為をしてしまうものです。例えば、電車の中でのこと。人よりも多くのスペースを使って長椅子に腰掛ける、所かまわずスマホに夢中になっていて周囲をまったく気にしない、背中の荷物を辺りの方々にぶつけてしまうなどなど。多分、当のご本人は他のことに気をとられ、他人に迷惑をかけていると感じてはいないのだと思います。

 迷惑とは、他人のしたことで不快になったり困ったりすることをいいます。少し詰めてくれれば椅子に座れるのに、出口付近でスマホをいじらず少し動いてくれれば乗り降りがスムーズにできるのに、荷物を持つ場所を変えてくれればゆっくりと立てるのにと。迷惑とは、自分が反対の立場になって気がつくものです。

 弘法大師は、『三昧耶戒序』の中で「善人の用心は他を先とし、己を後とす(善人は、他者の利益や安楽を先に考えて、自分ことは後回しする)」といいます。そして、菩薩さまが他者に対して起こす「抜苦与楽」の心、すなわち楽しみを与え(慈)、苦しみを取り除く(悲)という大慈大悲(いつくしみとあわれみ)の心が、仏さまの教えを基に暮らしていく者には重要であると説きます。

 菩薩さまのような慈悲の心を起すというと、少し難しく考えてしまうかもしれません。しかし日頃の生活で、自分自身が他者を不快にさせている小さな迷惑行為に気がつき、ひとときでも過ごしやすい時を与えることができるのなら、それが慈悲の心の始まりといえると思うのです。

 「他を先とし、己を後とす」。日々、お不動さまに祈りながら普段の生活を振り返り、相手のことを慮る菩薩の心を身につけていきましょう。

執筆者 真言宗智山派 東京都 圓應寺 住職
智山教化センター長 山川弘巳 師

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