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11月 忍辱にんにく(堪え忍ぶこと)

11月 忍辱(堪え忍ぶこと)

「苦は楽の種 楽は苦のたねと知るべし」

時代劇などの印象から「黄門さま」の愛称で馴染み深い、徳川光圀公の言葉といわれます。

水戸市にある六地蔵寺(ろくじぞうじ)というお寺には多くの文化財が所蔵されており、その宝物や書籍を収めていた蔵(旧法宝蔵(きゅうほうほうぞう))は水戸藩第二代藩主徳川光圀公の命による建立と伝えられています。明治四十二年、蔵を改修するために調査を行なったところ、蔵の中から慶長小判三十枚が発見され、これは将来の修復費用として光圀公自身が密かに置いたものであることが判明したのだそうです。

二十年ほど前、古文書の調査のために六地蔵寺へ伺った際、ご住職様がそのお話をしてくださいました。「さすが黄門さま、われわれ凡人とは考えることが違いますね!」などと、たいへん興味深く聞かせていただいたことを覚えています。

蔵を建てるだけでなく何百年も後の修繕費まで、お寺に苦労をかけまいと大金を納めておくのですから、名君として今もなお人々から親しまれる存在であることもわかるような気がします。また寺宝や書籍の保存に対する強い思いがあったということなのかもしれません。

さて、冒頭の「苦は楽の種 楽は苦のたねと知るべし」は、徳川光圀公が子孫のために遺したとされる九ケ条の訓戒(『徳川光圀卿九ケ条禁書』)の第一条に記されている言葉です。

「人生楽ありゃ苦もあるさー」というあの主題歌の歌詞は、この言葉から生まれたものでありましょう。作詞家の絶妙なセンスの良さが感じられますね。

誰もがご自身の経験からよくご存じのことと思いますが、苦しい中でも一生懸命に努力し続けていればその先には楽しいことや嬉しいことが待っています。逆に、楽をしてダラダラと過ごしてしまえば、後になって必ず苦しい状況がやってきます。

この世は「娑婆(しゃば)世界(せかい)(=苦しみに耐え忍ばなければならない世界)」であっても、「苦」を乗り越えることによって心(魂)の成長をとげれば、その先にはきっと人生における本当の意味の「楽」が待っています。

「苦」はいつの日か「私たちの人間性を大きく成長させ、人生を豊かにする宝」に変わる時がきます。「苦しみに耐え忍ぶ」ということも「菩薩の修行」の一つですから、大きな功徳を積む行ないであるといえるでしょう。

「楽の種」である「苦」と向き合いながら、「楽」と咲かせることができるよう、耐え忍んで生きてゆきましょう。

執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明

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