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5月 宇宙をかんずる

5月 宇宙を観ずる

私たちが住む宇宙の誕生は今から約138億年前とされています。先日(令和4年4月7日)、東京大学宇宙線研究所などが参加する国際研究チームの発表で、「135億光年という遠い宇宙のかなたに輝く銀河(またはブラックホール)とみられる天体が発見された」という報道がありました。

ビッグバンから約3億年後の宇宙には銀河が形成されており、135億年前に放たれた光がようやく地球までたどり着いて、現代の技術によってそれが観測できるようになったということです。しかもその間、宇宙はずっと膨張し続けているので、時間とともに更に遠ざかって、今では300億光年以上も離れたところにあるのだそうです。

あまりにも壮大な話ですが、真言宗の私たちには身近に感じられる話でもあります。真言密教の教えの中心となる仏さまは大日如来であり、大日如来は宇宙がさまざまな生命を生み、等しく命を分け与える姿そのものであるからです。仏さまの世界をあらわす曼荼羅(まんだら)も、同じく宇宙に沢山の生命が生まれ、出会う営みの世界があらわされたものです。

以前にもご説明しましたが、私たちの「心」は「満月」に喩えられます。満月のような真ん丸の輪を「月輪(がちりん)」といって、それが私たちの心のかたちであるとされています。護摩祈祷などの修法(しゅほう)をする際、導師は心の月輪の中に様々な梵字や仏さまを観想(かんそう)しながら修法を進めていきますが、その基本となるのが「月輪観(がちりんかん)」や「阿字(あじ)(かん)」という瞑想法です。

「月輪観」は自分の心を月輪と(かん)じ、瞑想の中でその清らかな月輪をだんだんと大きく、宇宙全体にまで拡げていって、大宇宙と一体になる「心の修行」です。(どなたでも実修できますが、必ず正しい指導者のもとで行なってください)

具体的に何百億光年ということではありませんが、悠々と無限に広がる宇宙との一体感が感じられ、とても清々しい気持ちになれます。そして、果てしなく大きな宇宙の中で「私」という存在が「とても小さい」ということに気づくと同時に、「私自身も宇宙の一部である」ということに気づきます。頭で考えてみれば当然のことなのですが、実感としてそのように感じ、宇宙とのつながりを再認識することができます。

また、雄大な宇宙の広がりを体感して心が清々しく解放されると、日常のチマチマとした悩み事も「まぁ、大したことでもないか」と思えるようになります。

仏教ではよく「人はみな仏の子」といわれます。私たちにはみな親がおり、そのまた親もおり、さかのぼっていくといつかは宇宙そのものに帰るのだとすれば、私たちはみな宇宙そのもの、大日如来の命を分かつ「仏の子」であると言えるでしょう。

瞑想の修行をしなくても、仏さまやご先祖さまに手を合わせるときには、時空を超越したその先にある大きな命のつながりに心を向けて、大宇宙の広がりを観じてみてはいかがでしょうか。

執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明

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