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三月「善なる心を培う」

三月「善なる心を培う」

 こよみの上で干支といえば十干十二支を指します。

「甲子(きのえね・こうし)」から「癸亥(みずのとい・きがい)」まで、60年で1周する組み合わせとなります。年と同じように月にも日にも、60か月・60日で1周する干支があてられています。その中で「庚申(かのえさる・こうしん)」にあたる日には「庚申まち」という行事が、古くは全国的に行われていたようです。

 道教に由来し、室町後期から江戸時代頃に流行したといわれる「庚申信仰」で、神社やお寺の境内、または寺社のある山の麓などに「庚申塔」や「庚申塚」が祀られていたり、ご本尊の青面金剛が安置されている立派なお堂も数多くみられます。

 庚申信仰においては、人の体の中に棲むといわれる三尸(さんし)(上尸・中尸・下尸という3種の霊虫)が、庚申にあたる日の夜、人が眠っている間に体から抜け出して上界に昇り、その人が60日間に犯した悪事を天帝(帝釈天または司命道人とも)に告げ口すると、天帝がその人の寿命を縮めてしまうと信じられていました。生まれた時から体の中に棲んでいる三尸の虫は、その人が死ぬと自由の身になれるため、寿命を縮めてできるだけ早く死んでほしいのですが、普段は体から出ることができませんから、庚申の日のチャンスを逃がすまいと、60日間の行動を事細かに記憶しているというのです。ですから、庚申の日の夜には皆で集まって、三尸の虫が体から出ていかないよう眠らずに過ごした、という風習です。

 古くからの行事が守られている地域では、現在でもかたちを変えて行われています。私が住職をしているお寺の周りにも、集落の家々が持ち回りで庚申さまの掛け軸をお守りして、徹夜はしませんが食事会などを行っている地区があります。

 令和3年の「庚申の日」は、奇数月(1/12・3/13・5/12・7/11・9/9・11/8)に廻ってきます。普段から善い行いしかしない人は心配いりませんが、人間そうはいきません。ちょっとしたことで誰かに迷惑をかけてしまうことも、家の中に入ってきた小さな虫を殺すことも、なんとも思わなければ山ほどしてしまいます。

 私たちが善い行いをしようと悪い行いをしようと自由です(犯罪はダメです…)。

「悪いことをするなよ!」と、お不動さまから常に睨まれているならば悪いことはできませんが、誰かに見張られていなくても、なるべく悪いことをしないように努力することはできます。

 「庚申まち」の風習は廃れてしまいましたが、昔の人はそのようにして「善なる心」を培ってきたのだろうと思います。60日に一度くらいは、自分の行いを省みる時間も必要ということなのかもしれません。

執筆者
千葉県南房総市
真言宗智山派
勝蔵寺住職 田口秀明

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