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二月 損しても徳を

二月 損しても徳を採る

 大阪に住んでいた若い頃のことですが、引越しを終えて新しい生活を始めるため、買い物に出かけました。何度か同じ店へ行くと、店の主人が「お兄ちゃん、まいど!」と、元気よく声をかけてくれました。千葉で育った私は、「いらっしゃいませ」と言われることが普通でしたから…大阪の商人はホントに「まいど!」って言うんだ…と、なにか少しうれしかったことを懐かしく思い出します。

 “大阪商人”という言葉に、私が持っているイメージは「気さくで会話が楽しく、ちゃっかり儲ける」という感じです(本来の大阪商人気質というのとは少し違うのかもしれません)。「ちゃっかり儲ける」というのは、「買うほうもお得だが、売るほうも上手に儲ける」と、儲かるか儲からないかを見極める感覚がするどくなければうまくいきません。また、会話の中にも人情味とユーモアがあり、楽しく商売をしておられます。

 商人の心得として特に有名なのは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」近江商人の「三方よし」の精神ですね。お客様に満足していただけるように、社会の役に立つようなものを作りたい、という意識を持って精一杯の努力をしていると商売がうまくいきます。

 「損して得取れ」という言葉も似ています。「先にちょっと損しておいて、後でガッポリ」という意味ではなく、「少し損をしてでも社会の役に立つような、徳のある善い商売をすればやがて大きな利益となる」ということでしょう。「得」の字を使っていますが、心得として大切なのは「徳」であり、「儲かればどんなものを売ってもいい」という商売は絶対にうまくいきません。

 日常生活においても「徳のある行動をとる」というのは大切なことですね。みんなが使う場所を無償できれいにしたり、他人が嫌がるような役回りを引き受けたり、損得勘定をすれば「ちょっと損したかも」と思うようなことが多いですが、「功徳を積む」という意識を持っていれば「損をした」という感覚よりも「良いことができた」という気持ちになれます。自分よりも相手にとって良いことを優先する人、地域のためになるような行動をとる人は、周囲の方からも大切にされて幸せそうな方が多いです。

 「損をした」と感じたときは「徳をした」と思えば、気分が良いです。

執筆者
千葉県南房総市
真言宗智山派
勝蔵寺住職 田口秀明

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