お不動さまのゆるぎなき智恵を象徴するものが、お持ちになる「剣」です。
されど世間で用いられている剣とは、形も違えば、その本質も大違いです。
世の中のそれは、腰に帯びる刀を意味します。相手を威嚇し、
実際に傷つけることが可能な鋭利さを備えます。
しかしお不動さまの剣は、「智剣」とも「利剣」ともいわれます。
瀧谷山のご和讃では「造れる悪業断除かれて転迷開悟の勝利あり」
「カン字はそのまま利剣にて 覆える迷霧を切りひらき」として、
ひとえに私たちが抱える無明をたちどころに断ち切る名刀であると説きます。
そうした意味から日本には利剣そのものをお不動さまとして
大切に信仰する様式も広まりました。
秀逸な工芸品などにその形をみることができます。
―当山御宝暦の法話から転載-
執筆者 柳下 純悠 師