瀧谷のお不動さまは、縁起を紐解くと「眼病平癒」に大変なご利益があると聞きます。その霊験記は枚挙にいとまがありません。また、「眼」が「芽」に転じて「芽の出るお不動さま」としても有名で、お参りされた方のあらゆる芽を育み、世に送り出していると伝えられています。
弘法大師が、記された『秘蔵宝錀』に次のような一節があります。
「それ禿(かぶろ)なる樹、定んで禿なるにあらず。春に遭うときはすなわち栄え華さく」
きびしい冬を過ごし枝の骨格のみが目立つ木々も、いつまでも枯れ木のままでいるのではありません。春の訪れとともに芽が出て花がつき始めます。例えば桃の木。冬場は枝のみが目立つ姿ですが、春になれば芽が出て花が咲き、7・8月にはまん丸とした実がつきます。しかしながら、春から夏にかけて日差しに恵まれなかったり、反対に日照りの日が続いたりすれば、芽も出にくくなり秋の実に影響を及ぼすことでしょう。
私たちの人生は順調な時ばかりではなく、常に思いもよらない厳しい現実に直面することもあります。しかし、良き機縁が熟せば、必ずや物事は良き方向に動き出し新たな結果を導きます。ですから、厳しい時期には、良き機縁に恵まれるような努力や精進を重ね、しばらく耐え忍ぶことも大切なのです。
現在、鬱屈した状況にいる方、長いトンネルに迷い込んで出口の見えない方、そのような不安な時こそ、どうぞ瀧谷のお不動さまをお参りしてください。必ずや芽が出る機縁を頂戴できます。
芽の出ない木々もなく、出口のないトンネルもないことを固く信じて。
執筆者 真言宗智山派 東京都 圓應寺 住職
智山教化センター長 山川弘巳 師