もしあの時、○○をしていたら…。もしあの時、○○をしていれば…
俗にいう「たられば」です。していたら、していればと過去を後悔する。しかし、時すでに遅し、です。
人は、生きていくうえで自分がしてきた言動を省みて、改め直す反省の時が必要です。仏教では、更に自分の言動を振り返り仏さまの前で罪悪を告白し悔い改めることを懺悔(さんげ)するといいます。いずれにしても、一端立ち止まり反省し悔い改め一歩踏み出すことは、人生にとって必要なことです。
しかし、だからといって、過度に過ぎ去ったことを後悔し続けることもあまり良くありません。なぜなら、過去は事実として受け入れなくてはならないし、その事実を消すこともできない、いつまでもそのことだけにとらわれていれば、決して前には進めないからです。
一方、○○になりたい。○○もしたい。と、目標を立てて進むことは大切なことです。しかし、目標に向かっていても、不意に災難、事故、病気などに遭遇します。未来はだれにもわかりません。その未来を過度に見つめていけばいくほど、不安な気持ちだけが浮かんできます。
お釈迦さまは、「過去を追いかけ未来を願う それはあってはならぬこと なぜなら過去はもうすでに 捨て去ったもので 未来とはまだ来ぬことを示すのだから 大事なことは現在をよく見極めて 動じずにまっすぐ正しく生きること(『仏教説話大系』22「一夜賢者」より)」といいます。
人生に「たられば」はないのです。懺悔や反省の後は、過去にも未來にもとらわれず、正しくまっすぐ前向きに生きること、今を見つめてただ一生懸命に一歩を踏み出すことだと思います。
執筆者 真言宗智山派 東京都 圓應寺 住職
智山教化センター長 山川弘巳 師