「夏の月の涼風、冬の天の淵風、一種の気なれども嗔喜同じからず(『性霊集』)」
昨年、7月のご縁日の時のことです。「本堂」「法楽殿」「観音堂」「多宝塔」「惣拝所」「三宝荒神堂」など、次々と手を合わせてまいりました。
その日は、とても蒸し暑かったのですが、「三宝荒神堂」から帰りの階段を降り始めた時に、頬にあたる風が一瞬にして涼しくなったと感じました。何ともいえない涼風です。夏の暑さの中に、このような涼風を感じることがあるのだろうかと足を止めて、そのひと時を楽しみました。ふと頭に「お参りは、風を変えるために必要な祈り」そのような言葉が浮かび、振り返ると西国三十三所の観音さまが並んでいらっしゃいました。観音さまは、正式名「観世音菩薩」という名のとおり「世の中の音を観る」、つまり世の中の人々の苦悩に耳を傾け救いの道を示してくれる菩薩さまです。そして「南無観世音菩薩」と唱える全ての者の前に、三十三の身に姿を変え救ってくれるといいます。
普段の生活の中で苦しみや悲しみに遭遇した時に、そっと救いの手を差し伸べてくれる方、私たちを良き方向へ導いてくれる方が現れる。きっとその方は、観音さまなのかもしれません。
そう思うと、自然に手を合わせ「南無観世音菩薩」とお唱えしたくなります。そして観音さまと向き合っていると、自分の心に浮かぶさまざまな思いのなかに、自覚という新たな風が吹き始めてきます。
祈りの中で観音さまに見守られ、風が変わり、心が変わり、自ら一歩を踏み出す。
また、瀧谷のお不動さまにご利益をいただきました。
執筆者 真言宗智山派 東京都 圓應寺 住職
智山教化センター長 山川弘巳 師