「何を祈られていたのですか」。十年前、四国八十八カ所をともに遍路してきた、八十過ぎの大先輩にお聞きしたことがありました。祈りの内容を聞くという大変無礼な質問ですが、成満の達成感から第八十八番大窪寺で訊ねてしまいました。この方、当初より身体を患っていながらの遍路修行で、身体の調子が悪化すれば途中で遍路を断念するかもしれないとこぼされていた方だったので、自分の健康について祈っていると思っていました。しかし、返ってきた言葉は「世界平和」でした。あまりにも大きな祈りなので、私は自分の甘さを痛感し、赤面したことを昨日の如く覚えています。
大先輩曰く「人それぞれ、いろいろな願いや祈りがあっていいと思います。しかし、世界が平和でなければ、その願いや祈りもかなわないのではないでしょうか」と。
大先輩は、第二次世界大戦の時に出兵し、終戦後、復員され、現在まで仕事をなさりながら、日本の礎を築いてきた方です。平和の大切さを肌身に感じられているからこその祈りの内容に、唯々頭が下がる思いでした。
お釈迦さまの言葉に
「勝利者は恨みを生じ、敗れた者は恨み悩んで暮らす。静安を得た者は勝敗を捨てて安らかに生活する。(『法句経』201:訳宮坂宥勝)」
とあります。あくなき欲望のために戦争は、起こります。その結果、勝者と敗者にさまざまな思いが生じます。お釈迦さまの求めたこと、それは、勝敗を捨てた安らかなる生活、永久の平和に他なりません。
大先輩の祈り続けていた「世界平和」。それを実現するため共に祈りたい。八月の終戦記念日の祈りは、大切な祈りです。
執筆者 真言宗智山派 東京都 圓應寺 住職
智山教化センター長 山川弘巳 師