「暑さ寒さも彼岸まで」と言われているように、ようやく暑さも峠を越して秋の彼岸の訪れです。「彼岸」という言葉は、梵語のパーラミターを漢訳した到彼岸に由来します。
波羅蜜多という語は、仏教では必ず般若という語と結び付きます。正しく般若波羅蜜多です。先ほどパーラミターを到彼岸と訳されたと申しましたが、般若波羅蜜多は完成された智恵、悟りの智恵をさします。
私達が日常生活を営んでいるこの現実社会「此岸」は業・煩悩の渦巻く世界ですが、煩悩を滅した悟りの世界(涅槃)は平穏無事でこれを「彼岸」と言っています。さてこの彼岸へ渡るためには、私たちはどのように生活をして行けばよいのでしょうか。
私たちは自己の置かれている世俗の世界で苦悩にさいなまれていますが、悟りの世界を求めてやまない心があるかぎり、そして迷いの世界の生に目覚め『般若経』が説く菩薩の修行徳目をたゆまず実践してゆくかぎり、自分も他の人々をも目覚めさせずにはおかない力となってゆくことでしょう。
夏の暑さから秋の涼しさに到る自然の営みは、此岸から彼岸を目指す旅立への誘いであると見ることも出来るでしょう。
執筆者 高麗行真
略歴:東京都西東京市泉町
真言宗智山派 如意輪寺住職
真言宗智山派 教学部長