大日如来・阿弥陀如来・薬師如来など、如来と呼ばれる仏さまがいらっしゃる世界を「浄土」といいます。その中でも特に有名な「極楽浄土」は阿弥陀如来さまの浄土です。大日如来さまの密厳浄土や、薬師如来さまの瑠璃光浄土など、ひとりひとりの仏さまにそれぞれの浄土があります。
「浄土」に対して、私たちが生きている「この世」のことを「娑婆世界」といいます。
「シャバの空気はうまいぜ!」などのセリフを聞くと、「シャバ」という場所は「自由な良い世界」のように聞こえてしまいますね。しかし、それは自由が許されない厳しい環境から解放されたときのセリフであって、本来「娑婆」とは「堪え忍ぶ」という意味ですから、「娑婆世界」は「(苦しみに)堪え忍ばなければならない世界」ということになります。
人生には、自分の思い通りにならない四苦八苦の苦しみがあり、私たちはそれらの苦しみに耐え忍びながら生きています。
自分の力だけではどうにもならない「苦」があるからこそ、人は神仏に手を合わせてお祈りをするのではないでしょうか。
全てが思い通りになる「楽」だらけの人生であれば、神さまも仏さまも必要なくなってしまいます。祈る必要もないし、目標に向かって努力することもなくなってしまうでしょう。
娑婆世界に生きる私たちは、「苦」を堪え忍び、努力して乗り越えていくから成長するのであって、100年の人生をいかに前向きに生きていくか、ということが大事なのだと思います。
そして、自分の努力だけではどうすることもできない苦難があるときは、お不動さまに助けを求め、ご加護をいただいて乗り越えていきましょう。そのようにご縁をいただいて信心を続けていれば、その後の人生もまた良い方向へと導いていただくことにつながります。
そうしたご縁を大切にして、健やかな日々を過ごしてまいりましょう。
執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明