今年も残すところあとわずかとなり、気ぜわしくなってまいりました。
本来は、旧暦の12月のことを「師走」といいますが、現在ではほとんどの場合、新暦の12月を師走と呼んでいます。新暦と旧暦では一ヵ月程度のずれが生じますので、旧暦の12月は翌年の1月から2月にかかることが多いです。
ちなみに令和3年の旧暦12月は、年明けの1月3日から31日までとなっていました。年明けの3日に「今日から師走ですね!」というヘンテコな会話をした人はおそらく1人もいないでしょうから、現在では新暦の12月を師走と呼ぶのが一般的、ということになりますね。
12月の異称として、古い文献や歳時記などには「極月」や「臘月」という言葉もしばしば見られます(こちらも本来は旧暦の12月です)。他にも調べてみると12月の別名は数多く存在し、「除月」という呼び方もその一つにあげられます。また除月と同様に、旧年を除く日という意味で、大晦日のことを「除日」といいます。
除日の夜、年が変わる時間に撞く鐘が「除夜の鐘」です。煩悩の数と同じ百八つの鐘が撞かれます。108という数の由来については諸説ありますが、梵鐘の「梵」には「清浄な・神聖な」という意味がありますので、「心の汚れを除く清らかな響き」ということから「百八つの煩悩を除く鐘」と言い伝えられたのでしょう。
「煩悩」とは自己中心的な欲望のことで、私たち人間の苦しみの根源であります。私たちの心の本性は、満月のように清らかでまん丸の心であるはずなのに、いつも煩悩の雲に覆われていて本来の清らかな姿を見ることができません。その雲は簡単に消えて無くなるものではありませんが、一年の締めくくりに向かって少しずつでも心を整えていきましょう。
大晦日の夜、鐘の音が「ゴーン…ゴーン…」と聞こえてくると、心がゆっくりと落ちついていきます。梵鐘の音は、三千世界(全宇宙)に響き渡る如来の説法の声ともいわれます。よくよく聴いていると、インドで聖なる言葉とされる「オーン…オーン…」という響きにも聞こえるような気がしますね。
除夜の鐘には、古い年の汚れを取り除いて清々しい新年を迎えるという願いが込められています。 清らかな心でより良い一年をお迎えになりますようお祈り申し上げます。
執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明