お盆が過ぎたかと思うと、すぐに秋のお彼岸が近づいてまいります。
灼熱のお盆の時期に墓掃除をしたばかりなのに、もう雑草が生えてしまって…と、何か少し煩わしいような気持ちになることもありますが、お掃除を終えてきれいな花が供えられたお墓を見ると、とても清々しい気持ちになることでしょう。ご先祖さまもきっと喜んでいらっしゃいますよ!
お墓はご先祖さまが眠っている場所という考え方もありますが、仏さまの世界とつながる窓口であると考えていただいたほうが良いように思います。新しくお墓を建てたときや、お仏壇の仏像・位牌などを新調したときには、「開眼供養(魂入れ)」を行います。その際に私は、「魂を入れる」という感覚よりも、仏さまの世界に通じる「眼を開いていただく」というように念じて拝んでいます。
お墓や仏壇の前で手を合わせれば、いつでも仏さまの世界とつながることができるようになります。また、仏さまの浄土に往かれた方々は自由の身になっていますので、お仏壇にもお墓にも、お孫さんの心にも誰かの夢枕にも、どこにでも行けると考えたほうが自然でしょう。とはいえ、あちらの世界のことをこの世の理論で説明することはできませんから、『千の風になって』の歌詞にあるように、大空いっぱい自由自在に広がっているのだと考えたほうが、より真理に近いのかもしれませんね。
仏さまの悟りの世界、いわゆる「あちらの世界」のことを、「向こう岸」という意味の「彼岸」という言葉で表します。私たちが住む「この世」は「此岸」です。この世、すなわち「迷いの世界」から、仏さまの「悟りの世界」へ渡ることを「到彼岸(彼の岸に到る)」といい、『般若心経』などに読まれる「波羅蜜多(梵語ではパーラミター)」という言葉になります。
春と秋のお彼岸の時期には太陽が真西へと沈むので、西の彼方の極楽浄土へ往生することを願って、ご先祖の供養やお墓参りが行われるようになったと言われます。
ご先祖の供養は「回向」ともいいます。お墓参りをしてきれいな花を供えることも、お線香の良い香りを届けてあげることも、大きな功徳を積む行為です。その功徳をご先祖さまに回し向けてさしあげることが「回向」です。回向された功徳は、ご先祖さまから更にまた回し向けられ、私たちも日々の生活を幸せに過ごさせていただけるということになります。
目に見えない世界の話ではありますが、仏さまの世界におられるご先祖の供養をして不幸になるはずがありませんので、ご先祖さまがいつも彼岸から見守ってくださっているということを心にとどめておいていただきたく思います。
執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明