先月の法話に蓮の花の話を書きました。蓮の特性について、弘法大師さまは『般若心経秘鍵』という著書の中で次のように説いておられます。
【蓮を観じて自浄を知り 菓を見て心徳を覚る】
「泥の中にあって泥に染まらない蓮の花を観て、自らの心の本性が本来清浄であることを知り、蓮が果托に実を宿している様を見て、私たちの心の中に仏性(人が仏となる種子)が具わっていること気づくことができる」と教えてくださっています。
私たちは日々の生活の中で、欲望や怒りなど、煩わしいことに心を乱されながら生きています。心の中に仏性があるのだと言われても、心の本性は清浄なのだと言われても、私たちの心はいつも雑念や煩悩に覆われていてなかなか理解することができません。
しかし、そのことを意識して生きる人と、まったく意識せずに生きていく人とでは、人生の進む方向が大きく違ってきます。心の中に仏性があり本来清浄であると理解することは難しくても、信じて努力することはできるはずです。
まったく意識しなければ、煩悩はずっと煩悩のまま心の中でさらに大きく膨らんでいってしまうでしょう。信じて努力することができる人は、心の中の仏性に照らして、今日の自分の行動が「善」なのか「悪」だったのかに気づくことができるので、煩悩はそのまま菩提(さとり)に向かって努力する糧となります。人生を謙虚に、丁寧に生きることにつながるでしょう。
お不動さまが手に持っておられる利剣は、私たちの悪業や心の迷いを断ち切って菩提へと導く「転迷開悟」の力を授けてくださいます。お不動さまのご加護をいただいて、自心の仏性を覆っている煩悩を上手に浄化しながら、日々精進してまいりましょう。
執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明