「日本では家の中にそれぞれ小さな教会があってうらやましい。」
二十数年前でしたか、私が住職になったばかりの頃に読んだ本に、そのようなことが書かれていました。正確には覚えていませんが、「西洋の学者さんが日本を訪れた際に、各家に立派なお仏壇があるのを見てそう言われた。」という内容でした。
キリスト教徒の方は毎週日曜日に教会へ出かけて行ってお祈りをされますが、日本では多くの家にお仏壇があり、仏さまやご先祖さまをお祀りしていますので、朝起きては「いつもありがとうございます。今日も一日よろしくお願いします。」と手を合わせてから出かけ、夕方には「今日も一日ありがとうございました。」と感謝を伝えることができます。このように毎日いつでも自宅でお祈りができるので「うらやましい」とおっしゃったのでしょう。
日本には昔からそうした習慣がありますので、日本のキリスト教徒のお宅では、家庭用の祭壇を設けて「小さな教会」とし、日々のお祈りができるように工夫されている方も多いようです。
そのように考えれば、お仏壇は我が家の「小さなお寺」であり、神棚は我が家の「小さな神社」です。家族だけの特別なお寺と神社が家の中にあるのですから、是非ともご家族みなさんで毎日手を合わせ、大切にしていただきたいです。
現在では住宅事情や家族構成なども変わり、昔ながらの立派なお仏壇が家の中央にあるというお宅は少なくなってきましたが、小さなお仏壇でも、棚の上にご先祖さまの位牌が置かれているだけであっても、家の中に「祈りの場」があるのはとても良いことだと思います。目には見えなくても何か大きな力に守られていることに気づき、感謝の心を育てることができるからです。
また、ご自宅にお仏壇や神棚を祀られていない方も、瀧谷不動尊で授かる「護摩札」は、同じように「日々の祈りの場」となります。お護摩祈祷で加持された護摩札は、瀧谷山のお不動さまのご分霊(ご分身)として授かる御札です。単に護摩札として手を合わせるのではなく、その奥には仏さまの世界が広がっていて、仏さまの世界におられるお不動さまに直接つながっている、そのお不動さまに向かって手を合わせているのだと実感しながらお祈りをしていただくのがコツでしょう。
感謝の心を忘れず、日々のお祈りを続けていただけば、お不動さまはきっと良い方向へ導いてくださいます。
執筆者 千葉県南房総市
真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明