空気が澄んだ日の夜にはとてもきれいな星空が広がります。旧暦八月十五日は中秋の名月、皆さまはお月見をされるでしょうか?
現代社会は大変忙しい世の中になってしまい、昔ながらの行事を各家庭で丁寧に行うことが難しくなりつつあります。日本人は日々の生活の中で、そのような季節ごとの行事を通して、大自然の力や自然の恵みのありがたさなどを感じ、「こころで季節を味わう」ことによって、心と体のバランスを保ちながら過ごしてきたのだと思います。
子供たちも、そうした行事の仕度や片付けを手伝いながら、おじいちゃんやおばあちゃんからその由来や言い伝えなどを聞き、色々なことを学んだのではないでしょうか。お団子を丸めたり、月のうさぎの話をしたり、歌を歌ったり、日常とは少し違うそのような体験と季節感とが混ざり合って、良い想い出として心の中に残っていくのだと思います。
夜空に輝く月をしばらく眺めていると、時間もゆっくりと流れていきますし、やさしく光る月のあかりに心が落ち着きます。日常の忙しさを離れてリフレッシュする大切な時間となることでしょう。晴天に恵まれてきれいな満月が見られると良いですね。
真言宗では、私たちの「心」は「満月」に喩えられます。満月のような真ん丸の輪を「月輪」といって、それが私たちの心のかたちであるとされます。
凡夫である私たちの心は、初めは新月のようであっても、心の本性は本来清浄であり仏性を備えています。私たちが菩提心を発せば、心が仏さまの教えに照らされて日に日に光を増してゆき、やがて満月のように白く光り輝かせることができるのだと、真言宗の重要な論書(『菩提心論』)に説かれています。
厳しい仏道修行をしなくても、信心をもって善い行いを心がけていれば、心が少しずつ輝いていきます。日常生活の中では煩悩の雲に覆われてしまいがちですが、お不動さまや観音さまに参拝されるときには、きっと誰もが清らかな心で手を合わせておられるはずです。呼吸を静かに整えて、心を満月のようにまぁるく、まっ白くして手を合わせていただくと、とても気持ちよくお参りができることと思います。
時にはその真っ白な心の月輪の中に、お不動さまのお姿を観ずることができるかもしれません。
執筆者 千葉県南房総市 真言宗智山派 勝蔵寺住職 田口秀明